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​治療内容

1) メリット

①健康な組織を傷つけず、壊死組織という腐敗したところだけを取り除きます。

②高度な医療機器も特殊な手技も不要です。シンプルで誰にもできます。

③出血もほぼなく、麻酔も不要です。

④MRSAという耐性菌にも有効であり、抗菌薬の内服・点滴は不要(併用は可)です。

⑤局所治療であり、全身性の大きな副作用はありません。安全な治療法です。

2) デメリット

①日本では自由診療のため医療費は高額になります。最大のデメリットです。

②人によっては痛みをともなう場合があります。

たいていは、痛み止めの内服などでおさまります。

ただし、血流が悪くすでに痛みがある場合は、痛みが増強することがあります。

③誰にも(医療者側にも)初めはマゴットに対して気持ち悪いという忌避感があります。

しかし、続けると慣れてきてその気持は(ほとんど)薄れます。

というのも、マゴットは傷を治してくれているのだという気持ちになるからです。

3) 注意点

足の潰瘍であれば、この治療を行う前にまず血流評価の検査が必要です。

なぜなら、血液の流れが悪い場合はこの治療に限らず治りにくいからです。

もし、血流が悪ければ先に血行再建術という治療法が必要です。

血行再建術には外科的なバイパス手術と内科的な血管内治療があります。

したがって、はじめに循環器内科血管外科を必ず受診(あるいは主治医から紹介)して下さい。

足の潰瘍に対して血流評価をしないで治療が行われている場合があります。

4) 方法

糖尿病性足潰瘍に対する治療法を簡単に説明します。

1)まず、患部の周りを創傷被覆材でカバーします。

2)次に、マゴットを1cm2 あたり10匹程度おきます。

するとマゴットはすぐに壊死組織に向かい食べだします。

3)マゴットが呼吸でき、かつ逃げないようにナイロン製のメッシュ状シートで

カバーします。

4)最後に、紙おむつなど吸収の良い素材で全体を覆いドレッシングをします。

5)マゴットは壊死組織を休みなく食べ続けて急激に成長します。

6)48時間前後にドレッシングをはずしてマゴットを取り出します。

かわいそうですが、医療廃棄物として処理します。

このため蛹になることもハエになることもありません。

7)新しいマゴットを患部におきます。

1)~7)を繰り返します。

壊死組織がなくなり、感染が抑えられ、良好な肉芽組織がつくられたら終了です。

その後は、従来の外用薬を用いた保存的治療、陰圧閉鎖療法、植皮術などに移行します。

以上は患部にマゴットを直接おく方法です。主に北米で行われています。

これに対し、マゴットをメッシュ状のバッグに閉じ込めて患部に直接触れない間接法もあります。

主に欧州で多く行われています。

こちらは手技が容易で便利です。特に褥創などに有用です。

ただし、効果は直接法に比べやや劣ります。

■マゴット療法①.png
■マゴット療法②.png
■マゴット療法③.png

​5) メカニズム

(1) デブリードマン作用

慢性創傷にはたいてい壊死組織という腐ったところがあり、自然治癒を妨げています。

壊死組織は細菌の棲家であり、かつ隠れ家でもあるため、しばしば感染症をおこします。

したがって、抗菌薬をいくら使っても、細菌は一時的に減少しても死滅はしません。

そのため、はじめに壊死組織を取り除かないと慢性創傷は治りません。

壊死組織を取り除く処置をデブリードマンといいます。

デブリードマンで最も効果的な方法はメスなどで外科的に除去することです。

しかし、それはしばしば痛みを伴い、出血します。

他に化学的(薬剤による)、物理的(高圧洗浄など)、自己融解(創傷被覆材による)の方法もあります。

しかし、いずれも時間がかかり、効果は劣ります。

ところが、マゴットを使えば痛みは少なく、出血もほとんどなくデブリードマンが速やかにできます。

なぜなら、マゴットは腐肉食性のため、壊死組織という腐った部分を食べる習性があるからです。

正常なところは幸いに食べません。だから出血はほとんどありません。

つまり、壊死組織だけを効率的に除去できます。

食べるといっても口でパクパク食べるわけではありません。

まず、口から数種のタンパク質分解酵素を自分の周りに大量に分泌します。

それにより壊死組織をドロドロに溶かします。

特にセリンプロテアーゼというタンパク質分解酵素が重要な役割を果たします。1)

次に、スープ状になったものを吸い込んで消化し、自分の栄養にします。

結果として、創傷表面をクリーンにしてくれるのです。

さらに、彼らは物凄い食欲をもっています。

はじめは、たった2ミリの体長が48時間後には10ミリ前後まで成長します。

この間の成長力は真核生物の中では最大級です。

この逞しい生命力のおかげで、短時間で効果的なデブリードマンが可能となります。

 
(2) 抗菌作用

マゴットの分泌液には、強力な抗菌作用をもつ抗菌ペプチドが含まれます。2)

なぜなら、自らが蛹になる前にできるだけ病原菌を排除する必要があるからです。

私たちは、細菌による感染症に対して抗菌薬を用います。

一方細菌は、生存するために抗菌薬に対して無効化する対抗措置をとります。

薬を無効化する酵素を作る、自分の構造を変える、薬を細胞外に排出するなどです。

つまり、巧妙に手を変え品を変えて抗菌薬が効かなくするのです。

そうすると、また新たな抗菌薬を膨大なコストと時間をかけて開発しなければなりません。

しかし、細菌はまた(容易に)対抗措置をとります。まさにイタチごっこです。

ところが、マゴットの抗菌ペプチドは耐性菌に対しても有効なのです。2)

なぜなら、抗菌ペプチドは細菌の細胞膜を直接破壊し、細菌は対抗措置をとりにくいためです。

単純な攻撃がかえって功を奏するのです。

さらに、もうひとつ特殊な抗菌作用があります。

実は、細菌は慢性創傷で単独に存在しているのではありません。

たいていバイオフィルムというバリアを作り、その中で生息しています。

抗菌薬は、細菌単独には有効でもバイオフィルムに対しては効果が減弱します。

それに対し、マゴットの分泌液にはバイオフィルムを破壊する効果があります。3)

つまり、バイオフィルムを破壊して殺菌をすることが可能なのです。

 
(3) 肉芽組織形成促進作用

壊死組織がなくなり、感染がおさえられると皮膚潰瘍は赤い肉芽組織というものが形成されます。

そして、肉芽組織の上に上皮細胞が遊走して最終的に上皮化がおこって治ります。

実は、マゴットの分泌液にはこの肉芽組織をより早く作るための種々の物質が含まれているのです。4)5)6)

そのすべては解明されていません。まだわからないことがあります。

今後新たな発見があれば、お伝えしていきます。

1)Chambers L, et al:Degradation of extracellular matrix components by defined proteinases from the greenbottle larva Lucilia sericata used for the clinical debridement of non-healing wounds, Br J Dermatol 148:14-23, 2003.

2)Čeřovský V, et al : Lucifensins, the Insect Defensins of Biomedical Importance :The Story behind Maggot Therapy. Pharmaceuticals 7: 251-264, 2014.

3) van der Plas MJ, et al : Maggot excretions/secretions are differentially effective against biofilms of Staphylococcus aureus and Pseudomonas aeruginosa. J Antimicrob Chemother 61(1):117-22,2008

4) Horobin, A. J., et al: Maggots and wound healing: an investigation of the effects of secretions from Lucilia sericata larvae upon the migration of human dermal fibroblasts over a fibronectin‐coated surface. Wound repair and regeneration 13(4):422-433,2005

5) Bexfield A, et al : Amino acid derivatives from Lucilia sericata excretions/secretions may contribute to the beneficial effects of maggot therapy via increased angiogenesis. Br J Dermatol 162(3):554-62,2010

6) Kenjiro Honda, et al : A novel mechanism in maggot debridement therapy: protease in excretion/secretion promotes hepatocyte growth factor production .Am J Physiol Cell Physyol 301(6):C1423-30,2011

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