ヒロズキンバエによる花粉媒介
1) 近年の深刻なミツバチ不足
受粉用ミツバチの不足が深刻な問題になっています。
原因は不明ですが、ミツバチに規制するダニや農薬の被害ではないかなどと推測されています。
イチゴの促成栽培では、花粉媒介昆虫として西洋ミツバチ(以下、ミツバチ)が広く利用されています。
しかし、奈良県や日本海側のような冬季に低温・寡日照条件となる地域では、
受粉不良による奇形果が多発します。
なぜなら、厳寒期の低温と紫外線不足のためにミツバチの活動が阻害されるためです。
また、小規模な栽培施設の場合、ミツバチの個体数に対して開花数が不足し、
過剰訪花により奇形果が多発することがあります。
近年は交配用ミツバチの不足が深刻で、購入・借入価格は明らかに上昇しています。
2) イチゴのハウス栽培におけるハエを用いた受粉
そこで、奈良県農業研究開発センターでは、2016年度よりミツバチの補完昆虫を研究しています。
それは低温・寡日照条件でも活発に活動するヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)です。
この事業は(株)ジャパンマゴットカンパニー、岡山大学農学部、島根県および農研機構西日本農業研究センター
と協力し、生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」
の支援を受けています。
ヒロズキンバエは体長5~9 mm、金緑色で全世界の温帯・亜熱帯に広く分布しています。
日本でも全国、特に海岸近くに多く生息しています。
イチゴのほかに、マンゴー、ナシ、ブルーベリー、アブラナ科のナタネやワサビなどに訪花します。
しかしトマト、ナスなどのナス科野菜や、キュウリ、メロンなどのウリ科野菜には訪花しません。
3) ハエがミツバチよりも有利な点
活動温度幅が10~35℃とミツバチやマルハナバチと比べて広く、活動に紫外線が不要です。
したがって低温・寡日照地域の厳寒期のハウス内や、紫外線カットフィルムを展張したハウス内でも利用できます。
ミツバチは有機リン剤やピレスロイド剤の散布後、巣へ逃げ帰り活動しない傾向があります。
それに対してビーフライは羽化後の生存期間に著しく影響を及ぼす農薬はあるものの、
薬剤散布後でも訪花が認められます。
さらに、野焼きの煙が入ってきているハウス内でも活動し、盛んに訪花します。
ビーフライは軽量のため、訪花の際に花を傷つけません。
特に、ミツバチの過剰訪花による奇形果が発生しやすい「かおり野」や、
花弁が完全に開く前の訪花で奇形果が発生する「熊研い548(ひのしずく)」や
「アスカルビー」では低減効果が期待できます。
4) ハエの効果的な利用方法
ビーフライは、蛹の状態でカンナクズと一緒に透明パックに入って届きます。
栽培施設内で羽化させる必要がありますが、低温期はコツを必要としますので、
購入時に(株)ジャパンマゴットカンパニーから提供される
「ビーフライ利用マニュアル」を参考にして下さい。
ビーフライの蛹は羽化後の寿命は約2週間です。
これまでの研究から、7~10日間隔で1aあたり300匹の放飼が必要です。
ミツバチの代替昆虫として全開花期間に導入するにはまだ高価です。
よって、ミツバチの活動が低下する時期に限定して併用するのが適切な利用法です。
平成29年度のイチゴ用ビーフライの出荷実績はおよそ581万匹となりました。
これは栽培面積約16haに3ヶ月にわたって放飼できる数量です。
日本海側の産地での導入実績が多く、公設の試験研究機関でも利用されています。
これまでに導入実績のなかった地域からの問い合わせも増えています。
平成30年度の出荷数は1000万匹程度になると予想しています。
5) 授粉用ハエの入手方法
(株)ジャパンマゴットカンパニー(http://jp-maggot.com/main/)が、2012年から
花粉媒介昆虫としてヒロズキンバエを「ビーフライ」という商品名で販売しています。
また、同社ではヒロズキンバエの医療用無菌性ウジ虫「マゴット」も販売しています。
マゴットは下肢切断を救うためのマゴットセラピーに用いられています。
ヒロズキンバエは私たちの暮らしにとても役立っている昆虫です。





